ALBA流 ひとり旅の流儀

1.旅の鉄則:何を捨て、何を守るか

旅していると、物事の優先順位がはっきりと見えてきます。危険に遭う可能性が、自分の国、自分の街にいるよりも高い以上、万が一そうした事態に遭遇したとき、何を捨て、何を守るか、ということを、つねに意識のどこかで気にかけているからでしょうか。
私の優先順位はズバリ、

1)命  2)パスポート  3)カード・お金の類  4)以下、自分の大事な物・・・

1) これは言うまでもないでしょう。どんなことがあっても、これだけは守るべし、のダントツ1位。大枚はたいて買ったばかりの最新型ビデオカメラがフイになっても、お金が全額フイになっても、クレジットカードやパスポートさえ取られたとしても、やっぱり命がなくなるより格段にマシです。というか、比較のしようがありません。

2) そうはいっても、パスポートは取られないに越したことがありません。国外に出たとき、自分の身元を公式に証明してくれる(identify)唯一のドキュメントですから、これを紛失すると、文字どおりアイデンティティを喪失することにもなりかねません。危機に瀕したとき、命の次に守るべきは、お金よりもパスポート。これが鉄則その2。そして、万が一再発行してもらわなければならなくなった場合に、なるたけスムーズに事が運ぶよう、予備の写真、日本大使館・領事館の連絡先等も持っておきましょう。

3) そして、カード・お金の類。前者二つに比べると、かなり重要度は下がりますが、それでもやはり重要。守れるなら守るに越したことはない。現金は必要以上に持ち歩かないのが鉄則ですが、ただ、私自身は、あまりカツカツの額にならないようにしています。たとえば、万が一命の危険を感じるような場面に遭遇したとき、とっさに現金でも握らせて逃げおおせるスキでも作れるように。まあ、気休めにすぎませんが、ともかくその日に使う予定よりも多めに持ち歩くようにはしています。サイフの中に1回分の食事代と電車賃ぐらいしか残ってない、ということは、日本ではさほど気にならなくても、旅先ではかえって不安です。また、小銭や、地下鉄運賃程度の少額紙幣は、サッと取り出せるよう、服やカバンのポケットにそのまま入れることも多いです(スられる危険性も考えて、です。でも全額スられるよりいいと思っていますので)。全額同じサイフに入れるより、分散しておくほうが安心できます。カードは簡単に悪用されるので、管理は現金以上に厳重に。私は、基本的には、現金と同じサイフには入れません。カードホルダーに入れて、カバンのファスナー付きの内ポケットに。これが定位置。

4) あとは、自分の思い入れの強さや価値観に基づいてつけられた優先順位に従います。購入価格とは関係ナシ。ぼろぼろの、でもいつも持ち歩いているお守り代わりの物とか、大切な人の写真とか、せっせと書きとめた旅日記とか、より自分を勇気づけてくれそうなものを守るのです。慣れない環境の中では、自分が気丈でいることが肝要。心を強く平静に保ってくれるものを守りたいというのが、私のポリシーです。結局それらが自分を守ってくれそうな気がするから。

2. 事前に調べておきたい事柄

1. にも書きましたが、いざというときのために、日本大使館・領事館の住所、電話番号と、カード紛失の際の緊急連絡先、それから、カード会社でも旅行代理店でもいいから、日本語が通じ、とにかく駆け込めそうな緊急デスクの所在、こういったものを調べて、持ち歩くようにしています。緊急の際には、とにかく自国語が通じる環境をなるべく早く確保するが勝ち。このときばかりは、現地の言葉でがんばろうとせずに、しかるべき機関を頼る。幸い今までお世話にならずに済んでいますが、そう心得ています。

3. 旅のプラン作り:自分のスタイルを貫くべし

旅は計画を練っているときがいちばん楽しいと言われますが、飛行機のチケットさえ1週間前に手配したりして、行程らしい行程も決めずにあわただしく飛び立つことが多い、直前バタバタ主義の私には、あまりあてはまりません。それでも、旅のプラン作りは楽しいもの。大切なのはコンセプト。たとえば、「とにかく目当ての美術作品をひたすら見て回る」「実際に住みたいと思うような街を探す」「現地の人と意味のある話をできるだけたくさんする」・・・イタリアの場合、どこもかしこも、あまりにも見どころが多すぎるので、あまり短期間で動き回ることはオススメしませんが、それでもとにかく、どうしてもこれだけの期間でこれだけはまわりたいんだ、というなら、それもアリ。移動そのものをコンセプトにして、いかに快適に合理的に移動し、そのプロセスを楽しむか、でもいいと思う。こうじゃなきゃめダメ、というのは、基本的にはないので、各人各様の「これだけはどうしても」を見極めて、それを核にプランを組む、これが基本ではないでしょうか。

4. 荷物:荷造りのポリシー

私はミニマム・エッセンシャルズ派。「へ?これだけ?」と驚かれるほど少ない。ゼロ・ハリバートンのキャリングケース(小)一つと、普通サイズのリュック、そしてハンドバッグだけ。理由は簡単、基本的にいつも自分で持ち運びしないといけないから。だから、かかえて駅の階段を上り下りしたり、列車を乗り降りできる範囲を超えないよう、持ち物や着替えを厳選する。ただ、今まで、一人で行ったのは、夏ばかりなので、服がかさばらないことに助けられてはいます。冬だと、こうはいかないかも・・・
服は、基本的にいつもと同じ路線。特別にドレスアップもしないし、ドレスダウンもしません。時計もアクセサリーも、いつも着けているものを、いつも通り着けています。ただ、それなりの一張羅になるようなものは、必ず一枚持っていきます。特別なドレスというのではなく、たとえば合繊でシワにならない素材のワンピースとかパンツスーツとか。とくに光る素材系は重宝です。同じ物でも、アクセサリーや髪型やメークの仕方で、かなり印象を変えられるので、ドレスアップ系にすることもできるし、普段用に着ることもできます。靴は、歩きやすくて、どんな服にも調和しやすいものを履いていき、一張羅用のパンプス系も一足、持っていきます。化粧品類も、いつものが基本。ハンドバッグは、できれば一張羅用にかさばらないものをスーツケースに入れていきたいのですが、そんなスペースはないので、小細工をすればそれなりにドレッシーに化けそうな、でも普段用の収納力もあるものを持っていきます。いざというときは、スカーフやちょっとお洒落っぽいハンカチを適当に巻き付けたりして、化けさせます。これで、(私の行く程度のところなら)ほぼ対応できています。

5. 移動:列車の旅のポイント

個人旅行の際の主たる移動手段は、やはり鉄道。イタリアの鉄道は、時間の不正確さとSciopero(ショーペロ=ストライキ)で、とかくイメージが悪いですが、私の経験した限りでは、発着時間はほぼ時刻表どおり。日本のように1分の遅れもなく、というのではないけれど、(おそらくショーペロでもない限り)行程に支障をきたすほどのものではありません。だから、ほぼ信頼してよいです。ショーペロにはまだ遭遇していないので、対応策は書けませんが、事前に発表されるらしいので、情報を入手しておけばしておけば、移動手段を変更するなど、何らかの策は講じられるでしょう。ここでは、鉄道を利用する際のちょっとした心がけを書いてみます。

1)切符は前日までに購入すべし:予約の要不要に関係なく、これは鉄則。切符は窓口での対面販売が基本。そして、たいてい長蛇の列。早めに並んでいても、一人でやたら時間をとる客もいるので、とくに長距離移動の場合は、前日までに買っておきましょう。自動販売機もありますが、万が一切符が出てこなかったらどうしよう、という漠たる不安をクリアして、トラブルに対処できると思えば、使ってください。私も急ぐときなど使いますが、いつもちょっとドキドキします。もし、トラブルに対処できるという確信がなければ、少々並んでも窓口で買うほうが得策。

2)乗車前は必ず切符をパンチして:改札はないけれども、ホームにある黄色い機械に切符を通し、パンチすることになっています。車内で、車掌が必ず検札に来て、チェックする。刻印がないと罰金を取られます。正確には知りませんが、かなり高額のはず。私は一度だけ、うっかり忘れてしまったことがあります。他に乗客もほとんどいなかったせいか、車掌さんは「気ィつけや」とだけ言って見逃してくれましたが、本来は罰金モノなので、絶対に忘れないように。慌てて飛び乗ったりすると忘れてしまうので、ゆったりと時間に余裕を見て行動してください。

3)荷物の管理:言うまでもなく、駅でも車内でも、荷物からは目を離さないのが基本。とくに、貴重品は肌身離さずに。とはいえ、中・北部を移動した経験の範囲では、私自身はとくに危なげな印象は持っていません。よく、スーツケースはチェーンでどこかに固定して、とか言われますが、いつもそのまま床においているし、カバンをかかえて眠ることもあります。ただし、これはたまたま運が良かっただけかもしれないので、だから大丈夫、とは言いません。ただ、思うに、たとえば現地の人は、スーツケースにチェーンをかけてはいないし、カバンを席においてトイレに行くこともある。旅行者だということで、浮きすぎるのも、かえってよくないかな、という気はします。ガチガチに防衛している様が見えてしまっても、かえって災難を招くような気もしますし・・・ただ、やはり勝手知らない旅行者であることに変わりはないわけで、内心びくびくしながら「じもてぃ」ぶっても意味がないし、慣れたフリしてスキだらけというのは無意味どころか、百害あって一利なし。ですから、やはり不安ならば、厳重すぎるぐらいの注意をしておいた方が、自分として悔いが残らないでしょう。私も、スーツケースはそのままでも、最低限の貴重品は、絶対トイレに行くときも持っていきます。


6. 街を歩くとき:注意深く堂々と

後ろに目を付けて歩く用心深さと同時に、堂々とした態度が大切だと思います。5.に書いたことと、いささか矛盾するようですが、内心は少々ビビッていても、何食わぬ顔で歩く。あくまで私見ですが、そういう堂々とした「気」を発することで、災難を退けるということも、ある程度言えるのではないでしょうか。もちろん周囲への注意力は必要ですが、まずその前に、自分の態度が堂々としていること、これが基本だと思うのです。それから、無用の声かけにはキッパリと対応すること。「タクシー?」と声をかけてくるのは白タクと相場が決まっているから、即座に"No." いちいち立ち止まる必要はナシ(正規のタクシーは客引きをしません)。"Ciao!"と声をかけてくるお兄さんには、"Ciao!"とこたえて、でも不必要に立ち止まらずに、そのまま歩けばよいでしょう。個人的には、こういうのは、ことさら無視することもないと思いますが、ヘンに付け入られそうで心配、と思えば、無視すればよいかも。そして、とにかくなんかヘンだと思ったら、取り合わずに完全無視。これに限ります。そのうちに、だんだん、応じれば素直に楽しめる場合と、無視した方が無難な場合のツボというかカンどころが分かってきて、楽しみながら街歩きができるようになるものです。日本人は総じて無防備と言われるので、気をつけすぎるぐらいでちょうどいいのかもしれませんが、かといって、あまりに猜疑心むき出し、周りはみんな敵、みたいな表情になるのも考えもの。締めるところは締めて、あとは楽しく!楽しむためにも、締めるところは締めて!!Divertitevi!!!


7. 食事:繰り返し同じ店に

一人旅だと食事のとき困る、という声をよく聞きます。分量が多いので食べきれない、ちゃんとしたレストランに入りづらい、一人で食べるのは面白くないetc. いろいろありますが、私は、気に入った店ができたら、日参するという手を取ります。たとえ二日の滞在でも、繰り返し行けば、店員さんとも顔見知りになるし、ぐっと親しみが増すものです。そうすると、ちょっとした話もできるし、料理のチョイスなどにしても、何かと融通をつけてくれたりします。バールでも、レストランでも、気の合いそうな店をかぎつけて、にわか常連になってしまいましょう。ぐっと楽しみが増すと思います。あと、コーヒーなど飲みながら、書き物をしたり、本を読んだりして、ゆっくり過ごすのもオツなものです。

8. お金の問題

基本はクレジットカード。レートもいいようだし、ちょっとした身分証代わりにもなるようなので、必需品です。ホテルの支払いや、まとまった額の買い物は、すべてカード。ほとんど現金は使いません。とくに、高額紙幣はニセ札の危険性を懸念して、受け取りを拒否されることもあるという話です。私の場合、現金を使うのは、もっぱら食事代と交通費。全額を現ナマで持っていくのも不安なので、半分ぐらいをトラベラーズチェック(日本円)で持っていきます。交換レートは現金より良いようですが、両替の際、パスポートの提示が必要なので、やや面倒です。が、盗難や紛失のリスクを軽減してくれます。両替は銀行が基本ですが、銀行によっては外貨の両替をしておらず、市中の両替所Cambio/Bureau de Change/Wechselに行ってくれと言われることもあります。あと、まだあまり使ったことがありませんが、国際キャッシュカードも便利でしょう。自分の口座から現地通貨を引き出せるもので、手数料を含めても、レートは悪くないと聞きます。とにかく、多額の現金を持ち歩くのはやめたほうが無難。ただ、どうしようもない場面に遭遇したとき、とどのつまり、アテになるのは現金。キャッシュレス社会でも、現金、即金の威力はまだまだ健在。あまり少なすぎるのも考え物です。とにかく、カードも現金もT/Cも、注意深く扱うことを忘れずに。人前でおおっぴらにサイフの口を開けたりしないこと、持参額より高いようなサイフをちらつかせたりしないことでしょうね。


9. 女性一人で旅する場合

女性一人で遠い国を旅しているという状況そのものが、ともすれば他人の好奇心をそそりがちであるということは、たしかに言えるでしょう。それゆえに、声をかけられることも多いと思います。別に、皆が皆、下心からばかりというのではなく、「どうして一人?」という純粋な疑問もあるようです。そういう場合に、自分がどのような態度を取るかは、あくまで自分が決めること。相手がこう言ったから、とか、こういう人に見えたから、という、相手寄りの根拠で行動を決めると、後悔することにもなりかねません。相手がこのような人に見えたから、こうしようと思って、実際こうした、という自分自身の判断に基づいて行動するのが鉄則です。自分がしっかりしていれば、純粋にコミュニケーションを楽しみうる機会にすることもできるでしょう。逆に、あやふやな気持ちと態度では、こんなつもりじゃなかったのに・・・という悔いの残る、あるいは取り返しのつかない事態を招きもするのでしょう。「旅の恥はかきすて」という考え方は危険です。日本でならしないようなことを、旅先だからというだけで安易にするのは災いの元だし、逆に日本では通用することが、外国では通用しないことも多いのです。大切なことは、望まない事態に対して、キッパリと"No."を言えるかどうか。どんな事態に際しても、自分の知力と良識と直感で、キッパリと対応することです。

10. 役に立つサイト

Ferrovie dello Stato :イタリア国鉄のサイト。時刻表、運賃の検索など。
venere.com:海外のホテルが検索、予約できるサイト。

(2000/9/25)